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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)203号 判決

原告

金沢龍進

ほか一名

被告

亡金元貞一訴訟継承人金元ミツ

主文

一  被告は、原告金沢龍進に対し、金三八一三万七二八五円及びこれに対する平成七年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告株式会社カンコーに対し、金六七一万九六一二円及びこれに対する平成七年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の、各負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの求めた裁判

被告は、原告金沢龍進に対し、金八四三〇万六二五七円及びこれに対する平成七年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被告は、原告株式会社カンコーに対し、金一二三四万円及びこれに対する平成七年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  原告金沢龍進(以下「原告金沢」という。)は後記の交通事故(以下「本件事故」という。)により負傷して損害を被ったとして、原告株式会社カンコー(以下「原告会社」という。)は代表取締役であった原告金沢の負傷により損害を被ったとして、それぞれ、相手方車両の保有者にして運転者である被告に対して、自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条に基づき、損害の賠償を求める。

二  本件事故の発生(争いがない。)

1  発生日時 平成七年二月一三日午前五時四五分ころ

2  発生場所 明石市二見町東二見二八六番地先路上

3  原告車 普通乗用車(神戸七七は五一七〇)

原告金沢運転

4  被告車 普通貨物車(姫路四五そ一九五一)

被告運転。保有者被告

5  争いのない範囲の事故態様

原告金沢が原告車を運転中に、道路の中央分離帯に衝突する自損事故を起して(以下「第一事故」という。)停車し、車外に出ていたところに、同方向を進行してきた被告車が原告車に衝突した(以下「第二事故」という。)。

(第一事故のあと第二事故発生までの原告金沢の行動や状況については争いがある。)

6  原告金沢の傷害と治療状況

(一) 第二腰椎圧迫骨折、外傷性右腎破裂(右腎摘出術施行)、肝挫傷、十二指腸漿膜断裂、失血性貧血、術後肝炎、腹部肥厚性瘢痕。

(二) 治療期間

平成七年二月一三日~五月一二日 西江井島病院入院(八九日)

同年五月一三日~平成八年八月五日 同病院通院(実日数二八日)

平成八年八月六日~同月八日 同病院入院(三日間)

同年同月九日~同月一九日 同病院通院(実日数二日)

平成七年五月二二日~同年一〇月三〇日 坪井クリニック通院(実日数五二日)

(三) 症状固定 平成八年八月一九日

二  争点

1  事故の状況と過失相殺

2  原告金沢の傷害と第二事故との因果関係

3  原告金沢の損害

4  原告会社の損害

三  原告らの主張

1  原告金沢は第一事故後いったん車を離れて、数分後に戻って車外から財布や携帯電話を取り出そうとしていたところに被告車が衝突したものである。

第二事故は、原告金沢が自損事故である第一事故により中央分離帯に衝突して停止していた時に起きたものであるから、第二事故による損害の発生について、原告金沢にも過失があるが、多めに見て三割に止まる。

2  原告金沢の損害

(一) 治療費 一五七万一四四五円

(1) 西江井島病院 一五六万八四四五円

(2) 後遺障害診断書 三〇〇〇円

(3) 坪井クリニック 〇円(健康保険を利用)

(二) 入院雑費 一三万八〇〇〇円

入院合計九二日間につき、一日一五〇〇円が相当である。

(三) 通院交通費 五万四〇〇〇円

西江井島病院 五万四〇〇〇円。

坪井クリニックは徒歩通院につき無用。

(四) 装具購入費 七万三三〇〇円

医師の指示によりコルセットを二個製作して、右代金を支払った。

(五) 入通院慰謝料 三〇〇万円

(六) 後遺症慰謝料 一〇〇〇万円

(1) 原告金沢には次の症状が残存し、自賠責により、後遺障害等級八級一一号、一一級七号、併合七級該当との認定を得た。

ア 第二腰椎圧迫骨折により、運動障害が残った。腰痛、腰部重圧感がある。肉体労働ができない。

イ 右腎破裂のために右腎摘出手術を受けて、腎臓の一個を失っている。

(2) 右後遺障害による精神的苦痛を慰謝するには一〇〇〇万円が相当である。

(七) 後遺症逸失利益 一億一五七二万六一三〇円

事故前、原告会社から受け取る年収は一二〇〇万円であった。右後遺障害により労働能力の五六パーセントを失った。事故時三九歳で就労可能年数は二八年とするのが相当であり、ホフマン係数一七・二二一一五により中間利息を控除する。

12,000,000×0.56×17.22115≒115,726,130

(八) 過失相殺

以上の損害は合計一億三〇五六万二八七五円となるところ、三割の過失相殺をすると、被告に請求できる金額は九一三九万四〇一二円となる。

(九) 損害填補

被告は西江井島病院に治療費一五六万八四四五円を支払い、原告金沢は自賠責保険から一〇五一万円の支払を得たので、これを控除すると、七九三〇万六二五七円となる。

(一〇) 弁護士費用

右残損額に本訴の請求に要する弁護士費用は五〇〇万円が相当である。

3  原告会社の損害

(一) 原告金沢は、本件事故当時原告会社の代表取締役であったが、いわゆる個人会社であり、原告金沢の勤務の実質は従業員として稼働して労働の対価として受領していた。

(二) 原告金沢は原告会社から一か月一〇〇万円の給与を得ていたが、原告金沢は本件事故による受傷のため平成七年二月一三日から平成七年九月中旬までは原告会社にまったく労働の提供ができず、平成八年一月中旬までは通常の一〇パーセント程度、その後症状固定までは通常の二〇パーセント程度しか労働を提供できなかった。

(三) にもかかわらず、この間、原告会社は原告金沢に従前の給与である月額一〇〇万円を支払った。

(四) 従って、原告金沢の労働の提供なくして支払った、次の差額合計一六二〇万円は原告会社が本件事故により被った損害である。

(1) 事故日~平成七年九月中旬(七か月) 七〇〇万円

(2) ~平成八年一月中旬(四か月) 三六〇万円

(3) ~平成八年八月中旬(七か月) 五六〇万円

(五) 右について、前同様に過失相殺を行うと、原告会社が被告に請求できる損害は一一三四万円となる。

(六) 右につき弁護士費用は、一〇〇万円が相当である。

四  被告の主張

1  被害車は原告金沢の自損事故により、ライトが消えて第二車線を塞ぐ形で停車していたもので、雨上がりでまだ暗い二月中旬の午前五時四五分ころという、ごく見通しの悪い状況で第二事故が発生したものである。

原告金沢の述べるとおり財布等を取りに戻ったとすれば、ライトを点けて近づいている加害車に気づく筈である。財布等を取りに戻るより先に自車が停止していることを後続車に知らせる義務がある。

原告金沢の主張のとおりであったとしても、その過失は六割と見るのが相当である。

2  原告金沢の負傷が第一事故によるものか、第二事故によるものかは不明である。加害車が衝突したとき原告金沢が被害車の中にいなかったようであるが、車の傍らにいて、第二事故で原告金沢の傷害が生ずるものか疑問がある。

3  原告金沢にその主張の後遺障害が生じたこと、(1)の治療費と(3)の通院費は認める。その余の損害は争う。

4  損害の填補は認める。

5  原告会社の損害については損害の発生及び第二事故との因果関係を争う。原告金沢の負傷にもかかわらず、原告会社が多額の給料を払えたのは、役員報酬であったということになり、労働の対価とはいえない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(事故の状況と過失相殺)について

1  証拠(甲二、三、原告金沢本人)によると、次のとおり認められる。

(一) 本件事故現場は、東行き車線は二車線(各幅員三・二メートル)の直線の道路である。中央分離帯は幅一メートルほど、高さ二〇~三〇センチほどのごく低いコンクリート囲いである。第一事故で、被害車は中央分離帯の先端(横断歩道があるため途切れていた。)に衝突して、第二車線をほぼ塞ぐように、進行方向に対して直角に近い向きで停止した。

(二) 原告金沢は第一事故後、いったん原告車から出て歩道に上がったが、財布や携帯電話を取りに戻り、助手席側のドアを開けて外から取り出そうとしているときに第二事故があり、原告車の車体が衝突して跳ね飛ばされた。

(三) 第一事故後の被害車の停止方向について、原告金沢本人は、第二車線を塞いではおらず、進行方向に近い角度であったと述べる。

けれども、被害車は右側面の前部が損傷しており、加害車の前部が全面に損傷していること、分離帯の高さからしてどちらの損傷も分離帯に衝突してできたものとは見えないことからして、被害者の右側面の前部に、加害車の前部の全面が衝突する形で衝突したと推定されることや、第二事故後の両車の停止位置やその向きからして、原告金沢の右供述は採用しがたい。

なお、原告金沢は、第一事故後も第一車線は車が流れていたとも指摘するが、原告車が第一車線に多少はみ出して停止しても、路側帯の幅が〇・八メートルあるので、第一車線を他車が通過する障害とはならないと推定される。

(四) 原告金沢は、第一事故後、ラジエーターから蒸気が噴出していると見えたので、エンジンを切ってキーを抜いた。従って、第二事故当時、被害車は、尾灯も車幅灯も点いていない状態で、後続車にその存在を知らせる措置はとられていなかった。

(五) 本件現場は、信号機の設置された交差点出口であり、歩道には街灯が設置されている。

もっとも、当時は、二月半ばの午前六時前と未だ暗く、雨上がりでもあって、前方は見にくかった。

(六) 原告金沢は、行く先を間違えて、Uターンして戻る途中であった。第一事故の状況は記憶しておらず、居眠り運転であったと認められる。

2  以上のような事情を考えると、第二事故は、自車の前方に対する注意を怠るという運転者としての基本的な注意義務を怠った点で被告の過失が大きいことは言うまでもないが、原告金沢にも、三割程度の過失があるものと認めるのが相当である。

二  争点2(原告金沢の負傷と第二事故の因果関係)について

1  原告金沢が負った、第二腰稚圧迫骨折、右腎破裂、肝挫傷、十二指腸漿膜断裂(腎臓に接した部分が縦に裂けていた。)は、隣接した部位に生じていること、腎臓は後腹膜側の臓器であるが、前腹膜側臓器には損傷がなかったことからして、原告金沢は右後方からの衝撃を強く受けた結果、右のような傷害を負ったものと認められる。(甲四六)

2  前記のような原告車の損傷状況から見て、第一事故で運転者たる原告金沢が後方から強い衝撃を受けたとは見えないから、これらの傷害は、原告金沢が第二車線を塞ぐように停止した原告車の助手席の外側にいたときに、その背中の右寄り部分に、被告車に衝突された原告車の車体が激突したことによって生じたものと認められ、もっぱら第二事故によって起きた傷害ということができる。

三  争点3(原告金沢の損害)について

1  治療費 一五七万一四四五円

当事者間に争いがない。

2  入院雑費 一三万八〇〇〇円

入院合計九二日間につき、一日一五〇〇円が相当である。

3  通院交通費 五万四〇〇〇円

当事者間に争いがない。

4  装具購入費 七万三三〇〇円

甲四九の1ないし3、五〇の1、2、弁論の全趣旨により認める。

5  入通院慰謝料 三〇〇万円

前記のとおりの傷害の程度、入通院状況や期間からして、右金額が相当である。

6  後遺症慰謝料 一〇〇〇万円

原告金沢にその主張の後遺障害が残り、自賠責保険調査事務所において、後遺障害等級併合七級との認定を受けたことは当事者間に争いがない。

右からすると、これに対する慰謝料としては、九〇〇万円が相当である。

7  後遺症による逸失利益 四三六七万八六九八円

前記の後遺障害は、その原因たる負傷から見て、生涯続くものと解される(甲四五、四六)。

原告金沢本人によると、原告金沢は、事故前は原告会社から月額一〇〇万円の報酬を得ていたのに、症状固定後は、原告会社の株式は全て保有したままその仕事を離れて、新たに始めたリフォーム業を営み、主としてその営業を担当しているが、月収は三〇万円に減じている、という(甲五一の1、2)。

けれども、原告金沢の労働能力の逸失による損害を考慮するについて、原告会社から受領していた月額一〇〇万円の報酬を基準とすることはできない。原告金沢の労働がなかったにもかかわらず、原告会社はずっと月額報酬を支払い続けていたことからしても、この報酬の中には役員としての報酬を(さらには一人株主であるというから、利益配当の趣旨も)含んでいることは明らかである。他に依るべき資料もないから、右報酬のうち原告金沢の労働に対する対価部分は、平均賃金程度と見るのが相当であるところ、平成八年度の賃金センサスによると、四〇歳から四四歳までの男子労働者の平均賃金(学歴計、企業規模計)は、年間六五八万一六〇〇円であるから、これを基礎収入として算定することとする。

また前記のとおり、原告金沢は後遺障害等級は七級との自賠責認定を受けているが、通常この等級の労働能力喪失率が五六パーセントとされるのに比して、右認定等級が併台による等級であることや、腎臓の一個を亡失したとはいえ、労働能力に対しては重篤な影響を及ぼしているとは見えず、現に原告金沢は新たな事業を起こして営業活動をしていることからして、その喪失の程度は五〇パーセント程度とするのが相当である。

そして、症状固定診断を受けた平成八年九月一三日当時、原告金沢は四一歳であるから、今後六七歳まで二六年間稼働できるものとし、新ホフマン係数により中間利息を控除すると、逸失利益は次のとおり計算される。

6,581,600×0.5×16.379=53,900,013

8  過失相殺

以上の損害は合計六七七三万六七五八円となるところ、前記のとおり三割の過失相殺をすると、被告に請求できる金額は四七四一万五七三〇円となる。

9  損害填補

被告が西江井島病院に治療費一五六万八四四五円を支払い、原告金沢は自賠責保険から一〇五一万円の支払を得たことは当事者間に争いがない。

右を控除すると、残額は三五三三万七二八五円となる。

10  弁護士費用

右認定の残損害額のほか、本訴の審理経過等に照らすと、原告金沢が本訴請求にようした弁護士費用のうち本件第二事故と相当因果関係のある損害としては二八〇万円が相当である。

11  以上によると、原告金沢の請求は、三八一三万七二八五円の限度で理由がある。

四  争点4(原告会社の損害)について

1  原告金沢本人によると、原告金沢は、本件事故当時原告会社の代表取締役であり、従業員は二五名ばかりを擁していたこと、原告金沢の負傷休業中も、原告会社は営業を続けていたこと、そして原告会社は、原告金沢の欠勤中も月額一〇〇万円の役員報酬を支払ってきたことが認められる。原告金沢本人は、その休業により営業成績が落ちた旨供述するが、これを裏付ける的確な証拠はない。

2  前記のとおり、原告会社は原告金沢の労働を得られないことにより、賃金センサスによる平均賃金程度の損害を被ったと評価するのが相当である。

治療状況からみて、原告金沢は、当初七か月は全く稼働できず、その後四か月は一〇パーセント程度、その後七か月は二〇パーセント程度しか稼働しなかったと認められる。

そうすると、原告金沢の稼働もなく、報酬を支払ったことによる原告会社の損害は、次のとおり八七六万一九〇五円と認められる。

6,581,600÷12×(7+0.9×4+0.8×7)=8,885,160

3  右について、前同様に過失相殺を行うと、原告会社が被告に請求できる損害は六二一万九六一二円となる。

4  右につき原告会社が本訴に要した弁護士費用のうち、第二事故と相当因果関係のある損害としては、五〇万円が相当である。

5  結局、原告会社の請求は、六七一万九六一二円の限度で、理由があることになる。

五  まとめ

よって、原告金沢の請求は三八一三万七二八五円、原告会社の請求は六七一万九六一二円と、それぞれに対する事故の日である平成七年二月一三日から右支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものとして認容し、その余は失当として棄却することとし、民事訴訟法六一条、六四条本文、二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明)

(別紙) 損害額計算表 (10―203)

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